いつだって、人は失ってから気づくんだ。
失ったものの大切さに。
この世界は灰色だった。
色褪せて、雨が降っているような。
人混みの中に彼女はいない。
いつもなら一瞬で見つけられるのに。
いくら探しても姿はない。
誰もが彼女を知らないと言う。
そんなはずはない、だって彼女はほんの少し前まで僕の隣にいたんだから。
見慣れた栗色の髪を探して、僕は灰色の世界をただ走った。
僕には彼女しかいないんだ。
そんなことは、ずっと前から分かっていたはずなのに。
何より怖いことは、彼女を失うことだって知っていたのに。
落とした花弁は見つからない。
もう一緒に笑い合えない?
もう一緒にいられない?
そんなのはダメだ。
ちゃんと言わなくちゃならない、だって僕はもうこの気持ちに気づいたんだから。
「ハーマイオニー、愛してる」
頬に雫が落ちた。
きっと、天使の涙だ。
「ハーマイオニー、ロンが大変だ!」
「どうしたの!?」
「毒酒を飲んでー」
私は続きの言葉も聞かず、全速力で医務室まで走った。
「ロン!」
彼はベッドに横たわり、苦しそうにもがき続けている。
もし、彼が目を覚まさなかったら?
彼がいない生活なんて、もう耐えられない。
4ヶ月も距離を置いて、よく笑う彼がどれだけ私の肩の荷を降ろしてくれていたか気がついた。
私がレポートを見る以上のことをしてくれるのだと、今更。
私には彼が必要だ。
ありのままの自分を見せられるのはあなただけだと知っていたのに。
こんな私を受け入れてくれるのはあなただけだと分かっていたのに。
しおれた花はもう咲けない?
私には祈ることしかできない。
どうか目を覚まして。
もう一度、笑顔を見せて。
それだけでいい、だから。
「…アー…ミー…ニー」
涙はもう止まらなかった。
呼んでくれたのは私の名前。
ハリーでもジニーでも、ラベンダーでもなく『ハーマイオニー』
ねえロン、もう全部許してあげる。
暖かさが身体を包んだ。
ぼやけた視界には探し続けた栗色の髪の少女が微笑んでいる。
「ハーマイオニー?」
ぽたりぽたりと雫が落ちた。
「ロンったら…もう」
ハーマイオニーはそこにいた。
あの暖かさはハーマイオニーだった。
「君が…ハーマイオニーがいない夢を見たんだ」
あの夢は、結局ここ4ヶ月と同じだ。
僕はずっとハーマイオニーを探していたんだ。
もう手遅れ?
もうダメだった?
だけど、それでも。
もう君を失うわけにはいかない。
「また遅くなっちゃったけど。それでも僕は君が好きで、必要なんだ」
「私もずっと…ロンが好きよ」
覚悟を決めて紡いだ言葉に返ってきたものはあまりにあっさりとしていた。
もしかしたら、ハーマイオニーも僕に友達以上の気持ちを持っているかもしれないと、感じたことはある。
だけど、そうじゃなかったら?
やっぱり自分が傷つくことを恐れていただけだ。
「そんなの…ありえないと思ってた…だって、ハーマイオニーが僕のことなんて…」
「一番初めにあなたを見つけたのは私なのよ、ロン」
2人とも顔をくしゃくしゃにして笑った。
「私たち、馬鹿だったみたいね」
長い長い回り道。
それでも、また会えたから。
もう君を離さないと約束させて。
--End