祈りを捧げて






ハーマイオニーは紫色の炎をくぐり抜け、重い樫の扉を押し開けた。


「ロン!」
未だ炎に包まれたチェス盤の上にロンが横たわっている。
近づいてみると、彼の頬に刻まれた大きな傷は血を滴らせていた。

「ああもう、もっと呪文を知ってくるべきだったわ。どうして1年生用の呪文集しか覚えなかったのかしら」
自分の不甲斐なさが歯がゆくてたまらなかった。
「ねえ…ロン、起きてよ…」


「ロンってば…」
途方に暮れたハーマイオニーは一向に目を覚ます様子のないロンの髪を軽く撫でた。

「ロン、起きて、起きてったら」
そのとき、ロンのまぶたがぴくりと動いた。
「ん…あれ…君、ハーマイオニー?」

ゆっくりと目を開けるロンをハーマイオニーは思わず抱きしめた。

「ロン、良かった…」
「ハリーは、ハリーは行っちゃったんだね?」
ハーマイオニーは頷いた。

2人の間に、少しの沈黙が訪れた。


「あなた、馬鹿よ!」
口火を切ったのはハーマイオニーだった。

いきなり馬鹿と言われたロンは口をぽっかり開けたままハーマイオニーを見つめている。

「どうして自分を犠牲になんてしたのよ…」
涙がこぼれる理由は分からなかった。


「どうして、って」
ロンは困惑してハーマイオニーを見つめた。

「他に手はなかったの?」
あなたが犠牲になる必要なんてなかったはずなのに、とハーマイオニーは小さく付け足した。

「…なかった」
それは嘘だ。ロンは顔を伏せた。
本当は、ルークであるハーマイオニーが敵のクイーンに取られたら自分がチェックメイトできたのだ。

しかし、そんなことはできない。

ハーマイオニーをルークに指名したのは紛れもない自分だから。
自分の判断ミスを他人に押し付けることなどできない。

おこがましい考えだったとしても、あのチェスで2人を守ることができるのは自分しかいなかったはずだから。


「嘘よ」
瞳を潤ませたまま、ハーマイオニーはぶっきらぼうに答えたロンを睨んだ。

チェスはできなくとも、聡明な彼女には全てお見通しだった。

「別にいいだろ、もう」
これ以上追及されるのを嫌ったロンはそう言って腕組みをした。

「良くないわよ!だって、自分を犠牲にするなんてー」
その言葉は遮られた。

「僕にとって大事なのは賢者の石じゃない!」
「えっ?」
ハーマイオニーは驚いて思わず素っ頓狂な声を上げた。

賢者の石を守るために来たのではないとしたら、何のために?

「大事なのはハリーと君なんだ」
何で分からないんだよ、とハーマイオニーを睨みつけながらロンは言った。

先ほどのチェス盤を馳け回っていたロンと全く同じ表情をしている。

「君だってそうだろ?だから一緒に来たんだろ?」
一瞬の間のあと、ハーマイオニーは微笑んだ。

「そうね」
ハーマイオニーの同意にロンも柔らかく微笑み返した。


「ああっ、ロン!本当は早く帰ってダンブルドア先生に手紙を出さなきゃならなかったの!早く戻らなくちゃ!」
突然、ハーマイオニーは顔を真っ赤にしてまくし立てた。

「それ早く言えよハーマイオニー!」

2人は慌てて走り出した。

鍵の部屋に置かれたままの箒をロンが掴み、跨がろうとして動きを止めた。

「ハーマイオニー、乗れよ」
ハーマイオニーが唯一苦手なものは飛行術だった。

ロンは硬直しているハーマイオニーの腕を取り、自分の腰に回させた。

「ねえ…大丈夫なの…」
普段そうそうお目にかかれない弱気なハーマイオニーにロンは笑いを堪えながら親指を立てて見せた。

「よくジニーを乗せてたからね」

2人分の重みに耐えながらフラフラと箒が飛び上がると、罠に遭遇することなく地上のような場所に着地した。

「どこ?」
見たことのない場所にロンはきょろきょろと辺りを見回している。

「ここ、きっと船着場よ」
ホグワーツの歴史に書いてあったわ、知っているでしょう?とさも当然のように言うハーマイオニーに、ロンは知っているもんかと答えた。

「どうやってフクロウ小屋に行くか分かる?」
ハーマイオニーは頷いてもちろん、とロンを手招きした。


しばらく階段を上ると雪に覆われたフクロウ小屋に到着した。

「どれでもいいから早く!」
「分かってるよ!」

ロンはハーマイオニーがダンブルドア宛に書いた手紙を近くにいたメンフクロウの脚に括り付けた。

そのフクロウの姿が遠くなったと思ったとき、よく見知った姿が突然現れた。

「ダンブルドア先生!」
ダンブルドアはロンドンから今しがた到着したようだ。
「ミスター・ウィーズリーもミス・グレンジャーもよくやった。わしはこれからハリーのところに行かねばならん。ほれ、2人はもう談話室に戻ってゆっくりおやすみ」

優しくはあったものの、有無を言わさないその口調にロンとハーマイオニーはとぼとぼと談話室へ戻った。


「寝れるわけなんてないよな」
ロンは談話室の暖炉の火をつけながらぽつりと言った。

「そうよ、親友が身を呈して戦っているんですもの」
その言葉にハーマイオニーも同調し、2人はふかふかの肘掛け椅子に腰掛けた。

「ハリーなら、大丈夫だよ」
「もちろん、大丈夫に決まってるわ」


まだ11歳の少年に全てを託して、2人は祈り続けた。







かっこいい騎士ロン。
彼の見せ場は少ないので、見せ場があるとついついエスカレート版SSを書いてしまうんです、ハイ。